老头和雷阵雨
むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
今日は土用のうしの日なので、町でうなぎを一匹買ってきました。
ところがそのうなぎを料理しようとしたら、つるりと手がすべってうなぎが逃げ出しました。
「ま、待ってくれえ」
おじいさんが追いかけると、うなぎはぐんぐん空へのぼっていきます。
おじいさんも負けじと、空へのぼっていきました。
すると雲の上の広い野原の中に、一軒の大きな家があったのです。
おじいさんがこわごわ家の中をのぞいてみると、奥から鬼が出てきました。
「そこにいるのはだれじゃ! 何しに、ここへやってきた!」
おじいさんはうなぎを追いかけて、ここまできたことを話しました。
「よし、わかった。ちょうどいいところへきてくれた。二、三日ここにいて、わしの仕事を手伝ってくれ」
「でも、鬼さんの仕事の手伝いとは? 言っておくが、人を食うのは嫌だぞ」
「あはははは。心配するな。わしは鬼ではなくて、かみなりだ。これから娘をつれて、雨をふらせに行く。毎日、夕立ちをふらさなくちゃいけないので、忙しくて困っていたんだ。さあ、さっそく出かけよう」
かみなりは七つのたいこをかつぐと、娘さんに火打ち石を、おじいさんには水の入ったかめをわたして雲に乗りました。
しばらく行くと、おじいさんの住んでいる村が見えてきました。
「いいか、娘が火打ち石を打ち、わしがたいこを叩いたら、そのかめの水をちょっぴりまいてくれ」
さっそく、娘さんが火打ち石を打ちました。
すると稲妻が、ピカッと光りました。
つぎにかみなりが、たいこを叩きました。
するとゴロゴロゴロゴロと、ものすごい音がひびきわたりました。
「よし、わしの番だな」
おじいさんは、かめの水を手ですくって、ぱっと投げました。
それはわずかな水でしたが、水は途中でどんどんふえて、たちまち滝のようになって下へ落ちていきます。
「こりゃあ、おもしろい」
おじいさんは調子にのって、どんどん水をまきました。
ひょいと下を見ると、近所のおかみさんたちが大あわてで洗濯物を取り入れています。
道を歩いていた人も、ころぶようにして家の軒下にもぐります。
「さて、ばあさんはどうしているかな」
自分の家に目をやると、なんとおばあさんが、むしろに干してある豆を運んでいるところです。
「し、しまった。早くしないと豆がだめになってしまう」
おじいさんは、思わず大声でどなりました。
「何をぐずぐずしている。ほれ、早く早く、あっ、転びおった」
むしろから、豆が飛び散りました。
「落ち着いて、早くしろ!」
おじいさんが手をふると、かめから水がこぼれて、どっと雨が落ちていきました。
「だめだ、だめだ。せっかくの豆が!」
おじいさんが大声でわめいていたら、だれかに頭をたたかれました。
「あれ? ここはどこだ?」
なんと、目の前におばあさんがこわい顔で立っているのです。
「おじいさん、何をねぼけているんです。それよりこれを見てください」
昼寝をしていたおじいさんが、あわてて飛び起きると、まわりはおしっこだらけです。
「し、しまった」
おねしょをしてしまったおじいさんは、恥ずかしそうに頭をかきました。
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