核心提示:肥料メーカーの多木化学(兵庫県加古川市)の株価が、5日急騰した。
制限値幅上限の前日比1000円(19.42%)高の6150円だ。それ
肥料メーカーの多木化学(兵庫県加古川市)の株価が、5日急騰した。制限値幅上
限の前日比1000円(19.42%)高の6150円だ。それも朝一番にストップ高を記録し
てそのまま終値まで継続している。
急騰の理由は、バカマツタケの完全人工栽培に成功したと前日に発表したから。季
節を選ばず大量栽培の道が開けたというので、投資家は飛びついたのだろう。バカ
マツタケが株価を大きく動かしたのだ。
バカマツタケはマツタケの近縁種。名前が名前だけに、マツタケより劣るように思
いがちだが、実は姿もよく似ているうえに味と香りはこちらの方が美味しくて強い
と言われるキノコである。
別名がサマツ(早松)であるように、マツタケより早く8~9月に発生することから
名に「バカ」がついてしまった。なお生えるのは、松林ではなくミズナラやコナラ
などの広葉樹林に多い。分布は全国ながら、あまり見つからないのでマイナーなキ
ノコ扱いでほとんど市場に出回っていない。
マツタケの人工栽培がなかなか成功しない中、バカマツタケの方が環境に適応しや
すいから栽培もしやすいのではないかと注目する研究者はいた。
実は昨年には奈良県森林技術センターが、人工培養の菌を自然にある樹木に植え付け
て発生させることに成功している。これがバカマツタケ栽培の第1号で、今年も継続発
生させて実用化に一歩近づけた。ところが多木化学は、これとはまったく違う手法を
とったのである。
というのは、木クズなどによる人工培地(菌床)で培養から生育までを室内環境で完
結させたのだ。これは画期的なことで、キノコ栽培の常識を覆す大発明かもしれない。
なぜならすでに栽培に成功しているシイタケやエノキタケ、ナメコ、ブナシメジなどは、
朽ちた樹木など生きていない有機物素材を栄養源とする腐生菌類である。だから菌床栽
培は比較的簡単だった。しかしマツタケ類などは菌根菌類と呼ぶ生きた植物と共生する
キノコ。菌糸を植物の根に伸ばして栄養を交換する。それだけに人工的な栽培は難しい
と考えられてきた。
とくにマツタケ類は、植物との共生が必須と考えられてきた。これまでマツタケ菌糸の培
養に成功した例はいくつかある(私もその度取材に行って、いよいよマツタケ栽培に成功
か、と期待していたのだが……)が、子実体(傘のある姿のキノコ)を出すことに成功し
ていなかった。だが多木化学は、とうとう菌糸から子実体を出させるシグナルを見つけた
のである。この研究成果は、これまでの定説を破るものであり、学術上も大きな成果だろう。
多木化学は2012年からバカマツタケの完全人工栽培に着手。今年4月に完全人工栽培の成
功を確認した。得られたバカマツタケのサイズは、長さ約9センチ、重さ36グラムで、天
然ものよりやや大きいかった。栽培期間は約3カ月。遺伝子チェックもしており、バカマ
ツタケで間違いない。その後も次々と発生して、現時点で計14本になったという。
菌床栽培なら、植物と共生させないので培養期間が短く、室内の環境を調整することで季
節を問わず生産できる。また室内栽培だから虫の被害に合わず収穫時も混入の心配がない、
収穫も簡単……などのメリットがある。同社は特許を申請中で、3年後の実用化を目指す
とされる。
菌根菌のキノコの中には、マツタケ類だけでなく、トリュフやポルチーニ、ホンシメジ、
タマゴタケなど高級キノコが多い。今回の成功が、これらの人工栽培技術にもつながるか
もしれない。……と考えていると、やっぱり株価は上がりそうだな。
ちなみにマツタケ類の中には、マツタケモドキ、ニセマツタケという種もある。こちらも
マツタケそっくりなのだが、残念ながら味や香りは劣るようだ。だが、バカマツタケの栽
培が軌道に乗って販売が広がれば、本家マツタケの方が異端扱いされる時代が来るかもしれない。
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